藤岡雅宣の モバイル技術百景
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藤岡雅宣さんがインプレス社のサイト”ケータイWatch”に連載中の記事を紹介します。▼
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第15回
2025年8月 藤岡雅宣の「モバイル技術百景」
通信障害が起きたらなぜ「機内モード」がオススメされるの? 藤岡 雅宣 2025年8月29日 07:00 モバイル通信では、日本国内で数十万局の基地局が設置され、人が行き来する場所はほとんどがサービスエリアとなっています。 私たちのスマホには通常複数の基地局からの電波が届いています。それでは、それらの基地局のどれと接続するかはどう決められ、また移動の際にどのように接続先基地局を切り替えて私たちが意識することなく通信が続けられるのでしょうか。 また、スマホがうまく動作しなくなったとき、いったん機内(フライト)モードにすると正常な状態に戻るとよく言われますが、この「機内モード」とは、いったい何なのでしょうか。 今回はこのような疑問に応えるために、スマホと基地局の間の基本的な無線接続の仕組み、移動時に接続を維持する仕組みを見ていきましょう。
| 無線基地局(セル)の選択 無線基地局は常に、近くにいるスマホに気づいてもらうように周期的に無線信号を送っています。 スマホの電源をオフからオンにしたときや、ある程度の時間、サービス圏外にいて、どの基地局とも接続されていないスマホは“初期セルサーチ(Initial Cell Search)”という動作で、スマホのサポートしている周波数のすべてで周りの基地局からの電波を見つけようとします。 図1に示すように、基地局は常に様々な信号を定期的に発信しています。そして、スマホが最初に見つけるのが基地局からの同期用の信号です。 4Gや5Gでは、基地局は無線信号を10ミリ秒(1/100秒)のフレームと呼ばれる単位で周期的に送ります。このフレームの区切りのタイミングを検出しその区切りに合わせるのが「同期」です。コンサートで、音楽に合わせて観客が手拍子をするようなイメージです。基地局への同期が確立すると、スマホはそれ以降の無線信号を正しく受信できます。 基地局は、スマホが接続するための必要最小限の情報を「報知チャネル」と呼ばれる無線チャネル上で定期的に送っています。 この基本情報はMIB(Master Information Block)と呼ばれます。同期を確立したスマホは、このMIBを受けることで、フレームにつけられている番号や、基地局との接続に必要な詳細な情報をどのように得るか、知ることができます。 基地局に接続するために必要な詳細な情報はSIB(System Information Block)と呼ばれ、これも基地局は定期的に送信しています。MIBを受信したスマホは引き続き、このSIBを受信します。 SIBはその用途によって複数のグループに分けられています。 MIBを受信したスマホが最初に受信すべきSIBはSIB1と呼ばれ、これにはモバイル通信ネットワーク(PLMN:Public Land Mobile Network)の識別番号であるPLMN ID(PLMN Identifier)と「セル選択のための指標」などが含まれています。 スマホは、そのユーザーが加入している事業者及びローミング接続しても良い事業者のPLMNのリストを保持しており、このリストを参照して基地局の選択を行います。SIB1に含まれたPLMN IDがこのリストに含まれていれば、その基地局への接続のための処理を継続します。 一方で、SIB1にそれ以外のPLMN IDしか含まれていなければ処理を中止し、ここまでとは別の無線周波数の同期信号を探すところからやり直します。 なお、SIB1にはその基地局を運用するモバイル通信事業者のPLMN IDだけはなく、その基地局を利用してサービスを提供する事業者、例えば自らSIMカードを発行するフルMVNO(仮想モバイル通信事業者)のPLMN IDなども含まれます。 さて、基地局のサービスエリアは実際にはセルと呼ばれる単位で管理されています。 「セル」とは、基地局の1つのアンテナがカバーする特定の周波数帯域のサービスエリアを意味します。 例えば、ある基地局が3つのアンテナを持っており、各アンテナが2GHz帯と1.7GHz帯の電波を送受信する場合には合計6個のセルをカバーしていることになります。 スマホが基地局を選択するというのは、実際には基地局のカバーするセルの中の一つを選択するという意味になります(ただし、一つのセルを選択して接続したあと、例えば異なる周波数帯の別のセルでの接続を追加することもあります)。 上記のSIB1に含まれる「セル選択のための指標」の中には、各セルでスマホが受けている電波の強さ(RSRP:Reference Signal Received Power)や電波の品質のしきい値が含まれており、セル選択では主にRSRPを用います。RSRPの大きさは概ねスマホ画面上のアンテナピクトの棒の本数に対応しますが、実際の本数はスマホでの実装に依存します。 セル選択で補助的に用いる電波の品質の指標として、4Gでは試験用の無線信号に対するノイズや周辺電波の干渉の度合いなどに基づくRSRQ(Reference Signal Received Quality)を、5Gでは同期信号における本来の信号に対する周辺からの電波干渉やノイズの大きさの割合を意味するSINR(Signal to Interference plus Noise Ratio)などを必要に応じて用います。 スマホで受信している電波がこれらのしきい値をクリアしていない場合には、そのセルの選択を断念します。 多くの場合、スマホの周辺には複数の基地局があり、スマホは複数のセルのSIB1を受けます。その場合には、各セルのRSRPやRSRQ/SINRをそれらのしきい値と比較した上で最も条件の良いセルを選択して接続処理を継続します。 海外にローミングした際などで複数の事業者の基地局からSIB1を受けた場合には、スマホ内のPLMNリストの中では選択優先度順にPLMN IDが保持されているので、通常はより上位にあるPLMNのセルの中から最も条件の良いセルを選択します。ただし、ユーザーが手動で特定のPLMNを優先的に選ぶこともできます。 | 通信の準備 スマホはセルを選択したあと、図2に示すように実際のアプリの利用などに備えた準備を行います。 まず、コアネットワークにアタッチ(Attach、4Gや5Gノン・スタンドアローン=NSAの場合)あるいは登録(Registration、5Gスタンドアローン=SAの場合)を行います。 これは、スマホの存在および在圏エリアをネットワークに記憶させるためです。 具体的には、スマホと基地局の間で制御用のメッセージをやりとりするパス(通信路)を設定します。そして、基地局とコアネットワークとの間の制御メッセージをやりとりするパスを経由して、スマホからコアネットワークにアタッチ/登録を要求するメッセージを送ります。 スマホから基地局の方向に制御用のメッセージを送るパスを設定するために、4Gでは2番目のSIBであるSIB2に、また5G SAではSIB1などに含まれる無線接続設定条件の情報が利用されます。 アタッチ/登録の要求がコアネットワークに受理されると、その応答が同じ経路で逆方向にスマホに返されます。 その後、スマホとコアネットワークの間で互いに相手の正当性(クローン端末や偽基地局でないことなど)を認証するやりとり、ユーザーの通信情報や制御メッセージを暗号化するためのキーの生成などが行われます。 相互認証や暗号化準備のあと、デフォルトベアラー(default bearer)と呼ばれるスマホとインターネットの間のベストエフォート(品質保証なし)の通信パスが設定されます。 これは常時接続ということで、ユーザーがウェブやSNSなどにアクセスする場合にいつでも利用できる最低限の通信パスになります。 デフォルトベアラーはインターネットにおけるデータ通信で用いるIP(Internet Protocol)ベースの接続で、この接続設定時にコアネットワークがスマホに実際の通信でのスマホの宛先に相当するIPアドレスを割当てます。 このIP接続は、スマホがコアネットワークにアタッチ/登録している限り維持されます。 ただし、私たちユーザーがある程度の時間実際のアプリやWebブラウジングなどで利用しなければ無線接続部分はいったん切断されます。これは無線リソースを有効利用するために、できるだけ無駄な接続をなくすためです。 つまり、スマホとインターネットの間の「論理的な」接続は常に維持されますが、無線部分の「物理的な」接続は必要が生じたときだけ設定されるようにしています。 ここで少し専門的な用語になりますが、スマホの無線部分が接続された状態を「RRC(Radio Resource Control) Connected」、無線部分が切断された状態を「RRC Idle」と呼びます。 一般に、スマホがRRC Connected状態で10秒前後という比較的短い時間でも実際の通信がないと、基地局はスマホをRRC Idle状態にさせて、無線周波数の有効利用を図ります。このRRC Idleになるまでの時間は通信事業者が決めるので、ネットワークごとに異なる可能性があります。 アタッチ/登録状態のスマホは、例えば同じ場所で同じセルを選択し続けています。アプリの利用などがなくても、定期的にコアネットワークに対して「位置更新」という動作を起こしてアタッチ/登録状態のリフレッシュを行います。 ネットワーク側は、実際の通信や位置更新が無くても、一般に1時間~数時間の間はアタッチ/登録状態や論理的なIP接続を維持します。 なお、音声通話や通信品質を保証するようなアプリでは、通常デフォルトベアラーではなくアプリ専用の通信パスを追加で設定して利用します。 | アイドル状態での無線基地局(セル)の再選択 スマホがネットワークにアタッチ/登録していても実際の通信をしていない状態、つまりRRC Idle状態でユーザーが移動するなどで選択中のセル(serving cell)の無線条件が悪くなり、より条件の良い異なるセルのサービスエリアに入るとスマホはセルの再選択を行う可能性があります。 この「セル再選択」はどのように行うのでしょうか。 ここで重要になるのが隣接セル(neighbor cell)の考え方です。モバイル通信事業者は多くの基地局を展開していますが、スマホによるセル再選択や次項で説明するハンドオーバーを相互に行う可能性のある、近いところにあるセル同士を隣接セルとして管理しています。あるセルに対して隣接セルは一般に複数あり、数個から数十個存在する可能性があります。 スマホがセルを選択すると、SIB1とかSIB2とは別のSIBで隣接セルの情報が基地局からスマホに送られます。スマホは隣接セルの情報をストアしておき、必要に応じて隣接セルの電波の状態をモニターします。 どの周波数の隣接セルをモニターするか、またどの程度の頻度でモニターするかは選択中のセルの無線状態、SIBに含まれる周波数ごとの「セル再選択優先度」と呼ばれる指標に依存します。 図3にRRC Idle状態のスマホによるセル再選択の流れを示します。 基本、選択中のセルの無線状態(RSRPやRSRQ/SINR)がしきい値よりも悪くなったり、いずれかの隣接セルの無線状態がより良い状況が一定時間以上続くと、その隣接セルを再選択します。 ただし、隣接セルの優先度と選択中のセルの優先度を比較して、例えば選択中のセルの優先度がより高ければ隣接セルの無線状態がより一層良好な場合にのみ再選択をします。 セル再選択優先度は8段階設定でき、周波数、4Gや5Gなどの世代/方式に基づき通信事業者が決めます。 RRC Idle状態のスマホがセルを再選択しても、アタッチ/登録状態や論理的なIP接続は維持されます。また、スマホがどのセルからの電波も十分に受からない圏外になったとしても、上記のとおりネットワーク側では一般に1時間~数時間の間はアタッチ/登録状態や論理的なIP接続を維持します。 いったん圏外になったスマホがセル再選択を行う場合は、圏外になる前に利用していた周波数やセルの情報が残っていれば、それらを優先して見つけ出し、セルを選びます。 分単位程度以上の長い時間、圏外にいて、圏外になる前の情報が残っていなければ、ゼロから初期セルサーチを行います。 | 通信中ハンドオーバー RRC Idle状態でユーザーがネットにアクセスしたりアプリを使い始めると、データ通信用の無線接続が設定されてRRC Connected状態になります。前述のとおり、デフォルトベアラーに加えて追加の専用接続が設定される場合もあります。ネット・データ通信を使い続ける限り、この状態は維持されます。 それでは、このRRC Connected状態のままユーザーが移動するなどして接続中のセルよりも無線状態の良いセルのサービスエリアに入るとどうなるのでしょう。ここでも、隣接セルが重要な役割を果たします。 図4にRRC Connected状態のスマホがセルを切り替える、つまりハンドオーバーの流れを示します。 スマホは、RRC Connected状態においても接続中セル及び隣接セルの無線状態をモニターして基地局に報告しています。 そして、接続中セルの品質(RSRPやRSRQ/SINR)が期待されるしきい値を下回り、ある隣接セルの品質が接続中セルよりも良い時間が一定時間継続すると、接続中のセルがその隣接セルにハンドオーバーすべきと判断します。 そうすると、接続中セルはハンドオーバー先の隣接セルにスマホの接続要件を含むハンドオーバーを要求します。その隣接セルの容量に余裕があるなどで、それを受け入れる応答をすると、接続中セルからスマホに対してハンドオーバーが指示されます。 RRC Idle状態のセル再選択はスマホが自らの判断で実行しますが、ハンドオーバーは基地局が主導します。基地局は基本、接続中のスマホから報告される無線状態のモニター情報に基づき、ハンドオーバーするかどうか判断します。 ただし、この無線状態の変化に基づく一般的なハンドオーバー以外に、特定のセルが混雑したときに、混んでいない隣接セルにスマホの接続先を変えさせたり、別の周波数のセルに接続先を変えさせたりする負荷分散などのためのハンドオーバーもスマホに指示できます。 RRC Connected状態のスマホが接続中のセルを含めて、どのセルからの電波も十分に受からず圏外になった場合、1~2秒程度で元のセルに再接続できればこの状態を維持できる可能性がありますが、それ以上の時間経過するとRRC Idle状態になります。 この場合、スマホがいずれかのセルのサービスエリアに戻るとそのセルを選択します。 ネットワークとして、未だスマホがアタッチ/登録状態とされていればこれを受け入れます。既にデタッチ/登録解除状態となってしまっていれば、スマホにアタッチ/登録し直すことを促します。 これまで説明してきましたように、RRC Idle時のセル再選択やRRC Connected時のハンドオーバーは隣接セルに対して行います。ただし、ユーザーが非常に高速で移動した場合(例えば新幹線で移動した場合)などで隣接セル以外のセルの電波しか受信できない状態になったような場合には例外もあり得ます。 | 複数セル利用時のハンドオーバー RRC Connected状態のスマホが複数のセルで接続している場合のハンドオーバーはどうなるのでしょうか。 4Gや5Gでは多くの場合、スマホは一つの周波数帯域のセルだけではなく複数の周波数帯のセルと接続します。一般的に、一つの基地局の複数セルを束ねて利用することをキャリアアグリゲーション(CA:Carrier Aggregation)、異なる基地局のセルを束ねて利用することをデュアルコネクテビティ(DC:Dual Connectivity)と言います。 CAが複数の接続を一体化した一つのパイプのように束ねるのに対して、DCはそれぞれの接続を一つひとつのパイプとして利用し上位層で束ねるというイメージです。 CAにおいては、束ねられた複数セルのうちの一つが主セル(Primary Cell)でセル選択時のアタッチ/登録で利用され、他が副セル(Secondary Cell)と呼ばれデータ通信容量の拡大のために用いられます。主セルはスマホと基地局との無線接続の制御信号のやりとりにも利用され、CAにおける副セルの追加や削除の制御も行います。 CAを利用しているスマホのハンドオーバーは、主セルのハンドオーバーが上記の通常のハンドオーバーとして実現され、それに伴い主セルを持つ基地局によって副セルも必要に応じて追加されます。 一方、DCにおいては異なる接続を提供する複数の基地局のうちの一つが主ノード(Master Node)でセル選択時のアタッチ/登録で利用され、他が副ノード(Secondary Node)と呼ばれ追加の通信容量を提供します。主ノードはスマホとコアネットワークとの間の制御信号のやりとりに利用され、副ノードの制御も行います。 DCの前提は、主ノードと副ノードが基地局間の回線で直接相互に接続されていることです。この回線は、4Gや5G NSAではX2と呼ばれ、5G SAではXnと呼ばれます。このX2/Xnを通して主ノードが副ノードの追加や削除なども制御します。 DCを利用しているスマホのハンドオーバーは、主ノードについては上記の通常のセルのハンドオーバーとして実現されます。副ノードについては、主ノードの制御の下で必要に応じて追加・削除されます。 主ノードのハンドオーバーの際に、必ずしも副ノードも変更する必要はなく接続を維持することも可能です。 一方で、副ノードだけを個別に変更することも可能です。ただし、DCの前提である基地局間のX2/Xnは必要なので、例えば主ノードのハンドオーバー先の基地局と接続中の副ノードを含む基地局の間にX2/Xnがなければ副ノードは必然的に切断されます。 | 5G NSAにおけるハンドオーバー 5G NSAにおいてRRC Connected状態のスマホは、基本上記DCにおいて主ノードが4Gの基地局に属し、副ノードが5Gの基地局に属する構成となっています。なので、ハンドオーバーは4Gの主ノードが制御することとなります。 4Gの主ノードがハンドオーバーして別の4G基地局に主ノードが移る際、5Gの副ノードを変更するかどうかは、スマホにおける5G副ノードからの電波の受信状況に基づきハンドオーバー先の4Gの主ノードが決めます。 | 機内モードとは 機内モードは、スマホにおいて一方的に全ての基地局との間の無線機能をオフにすることです。 デフォルトベアラーも無いものとして、そのためのIPアドレスもスマホ上から削除されます。つまり、ネットワークとの関係を全てクリアすることになります。 機内モードでは、スマホからネットワークに対して明示的にデタッチ/登録解除とするように要求しません。一定時間、ネットワーク側では、そのスマホについてのアタッチ/登録状態が保持されデフォルトベアラーも維持されます。 機内モードを解除すると、「長時間、圏外にいた後に圏内へ戻った」場合と同じく、周辺に対して“初期セルサーチ”を行います。 そして、適切なセルを選択してアタッチ/登録を行います。ここで、機内モードに入る前に利用していた周波数やセルの情報が残っていれば、それらを優先してセルを選択します。 なので、自宅などで機内モードにして、それを解除すると比較的早くセルを見つけることができるのに対し、海外の空港に到着した後で機内モードを解除するとセルを見つけるのに長時間かかることがあります。 スマホからの新たなアタッチ/登録により、仮にネットワーク側でそのスマホが未だアタッチ/登録状態と記憶されていてもそれを更新し、スマホとネットワークでの状態の不一致を解消します。 何らかの理由でセル再選択やハンドオーバーに失敗したとき、スマホ側の状態とネットワーク側の状態が不一致になることがあります 。 また、ネットワークの一時的な障害などでも状態不一致を生じることがあります。 この食い違いを、機内モードのオン・オフで無線部分をリセットし、両者の状態を揃えることで解消 できるのです。 スマホの電源をオフにすると、多くの場合実際に電源が切れる前にスマホからデタッチ/登録解除要求がコアネットワークに送られて両者での状態不一致は生じません。 ただし、電源をオフにした際にデタッチ/登録解除要求が送られなかったり、送られてもコアネットワークに届かなかった場合にはネットワーク側ではそのスマホのアタッチ/登録状態として情報が残ってしまうことがあります。この情報は、 電源オン時に機内モード解除時と同様に再アタッチ/登録を行うことにより更新 されます。 電源オフ時はスマホ全体がリセットされ、電源を再度オンにしたときに立ち上がるのに時間が掛かるのに対して、機内モードではネットワークとの接続部分だけのオフなので短い時間で通常の動作に復旧します。 | おわりに 私たちが日々当然のように利用しているスマホがどのように基地局を選んで接続しているのか、また移動するときに切り替えているのかといった基本的な仕組みをまとめました。 私たちユーザーが意識しなくても、スマホが常時接続によっていつでもインターネットとつながっているのですが、これは非常に精密な仕組みによって支えられています。 キャリアアグリゲーションやデュアルコネクティビティのように複数のセルを同時に利用する仕組みは、動画配信や大容量データ通信が当たり前となった現在に不可欠な技術です。これらは一見すると単に速くなったと感じるだけかもしれませんが、裏側では主セルと副セル、主ノードと副ノードといった役割分担という巧妙な仕組みを利用しています。 機内モードのような一見単純な機能にも、ネットワークとの関係をリセットし、食い違いを解消するという技術的意味が隠されています。通信障害のあとなどで機内モードのオン・オフが有効とされるのは、単なる迷信ではなく実際にスマホとネットワーク側の状態の不一致をなくす合理的な方法だからです。 モバイル通信がここまで重要な社会基盤となったのは、こうした仕組みを国際標準として定め異なるメーカーや事業者の機器が相互に連携できるように設計されてきたことの成果と言えるでしょう。
| 藤岡 雅宣 1998年エリクソン・ジャパン入社、IMT2000プロダクト・マネージメント部長や事業開発本部長として新規事業の開拓、新技術分野に関わる研究開発を総括。2005年から2023年までCTO。前職はKDD(現KDDI)で、ネットワーク技術の研究、新規サービス用システムの開発を担当。主な著書:『ワイヤレス・ブロードバンド教科書』、『5G教科書 ―LTE/IoTから5Gまで―』、『続・5G教科書 ―NSA/SAから6Gまで―』(いずれも共著、インプレス)。『いちばんやさしい5Gの教本』(インプレス)、大阪大学工学博士
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