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新 四 季 雑 感 (27)

樫村 慶一

近年、 日本語が乱れて 変わってきたのが 腹立たしい

 

 k-unet会員諸氏は少なくとも中年以上の年代で、かつ私より若いと思って書くのだが、近年、日本語が乱れている、と言うより、日本語が変わり、日本自体が変わってきているように思う。言葉は時代に沿って変化するものとは、世界共通の現象のようであるが、何時と比べて、と言われても、何時とはっきりした時期は難しいが、年々変わってきているということか。しかし、そう言う自分もその変化についてきたんだから、自分自身も変わったんだろうとも思う。

 近年で一番変わったと思うのは、「全然」と言う言葉だ、昔は、全然とは、否定語の前にしか使わなかった。それがいまでは 全然OKとか、全然いいよ、なんて、聞いて居てすぐこりゃ変だなと思うのが、平気で使われている。そうかと思うと、全く日常茶飯事的に語られる話し方で、・・・であれば、と思います、と言う言い方がある。なぜ、あれば の次を省略するのか、理由が分からない。普通は、・・・であれば、いいと思います、とか、・・・であれば結構だと思います、と完結させた言い方が日本語である。あれば、の後、たかが3,4文字を省略する、おかしな言い方になったものだ。  
 文字を省略すると言えば、訳の分からない4文字集合が若者の間で多く使われているようだ。スマホで叩くのに、時間と手間を省略するためなのか知らないが、新語と言えば、恰好いいが、年配者や超高齢者には通じない言葉は、もはや言葉とは言えないだろう。単なる符丁か暗語である。
 さらには、カタカナを振らないと読めない名前の多い事。特に目立つのは、スポーツ界だが、極端なのが、女子ゴルフ選手の名前である。他にもおかしな名前沢山あるが、特に女子プロ選手の名前はひどい、英語読みになるように、無理に漢字をおっつけているからか、ますます奇怪な名前になる。外国でプレイするときの用意なのかしらないが、常識外れの親の頭の中が見たいと思うと共に、一生カタカナを背負って生きて行かなくてはならない子供達が可哀そうだ。始めからカタカナ名前にすればいいのに、本来の漢字の読みを冒涜する、御し難い人間である。

 カタカナ名前のことを書いて思い出したが、日本語にカタカナ語が多い、と言うより溢れている。ここ数年、極端に増えてきた感じである。私には意味不明なカタカナ語が沢山ある。どうしてだろうか、日本語にならない言葉が沢山入ってきたから、いちいち日本語にできないので、そのまま使っているのだろう。明治の昔、baseball が入ってきたとき、正岡子規が、これを野球となずけた、フライを飛球、ベースを塁、ヒットを安打、日本語とうまくミックスさせたものである。時代とともに完全に定着した。今の人間には、日本語に訳することができないのか、それとも、カタカナ語を使う方が、恰好いいと思うからなのだろうか?
  英語がそんなに優れている言葉かというと、そうではない。英語は、ラテン語の現代版、いわゆる俗ラテン語の一つスペイン語(俗ラテン語は5兄弟で、他にポルトガル後、イタリヤ後、フランス語、ルーマニア語がある)より、800年遅れていると言われる。理由はいくつかあるが、分かりやすいものを2,3上げると、聞いた音を正確に書けないことである。例えば、日本人が、・・・アーと言う言葉を聞いたとき、語尾はarか er かir なのか班別できるか? スペイン語は、それぞれ、アル、エル、イルと発音は字の通りである。もう一つあげると、THがなぜ”ス”なのか、TIONがなぜ”ション”なのか、変な発音がいろいろある。ONにEをつけただけで、ワン になる。日本語の方がずっと歴史は長いと思う、それなのに、卑屈な憧れが変形して、カタカナ語が恰好いいと思う偏見が生まれてしまった。

 2020年5月2日の朝日新聞に、「近頃のカタカナ語は許容できるか?」というアンケート記事があった。オーバーシュート(爆発的患者増加)、ロックダウン(都市封鎖)、クラスター(感染者の集団)等は、コロナ蔓延期に政府が使い出したカタカナ語だが、評判は悪かった。同紙面に載った、近年使われるカタカナ語を許容できるかとのアンケートには、72%が、ノーと答えた、その内訳は87%が高齢者である。内容の理解は高齢者ほど必要なのに、特に平成、令和時代に増えたカタカナ語は評判が悪い。因みに、同欄にでていた、日本語の意味をつけなくてもいいカタカナ語と、付けて欲しい語の例をあげみよう。  

 日本語にしなくてもわかる語の主なものとしては、インパクト(衝撃、影響)、スキル(技術・技能)、アプリケーション(応用、適用、ソフトの略)、リスペクト(尊敬、敬意)、フリーランス(自由契約)、コンプライアンス(法令順守)、レガシー(遺産)、アウトソーシング(国際調達、外部委託)、オンデマンド(需要。必要があり次第)、エビデンス(証拠)などがある。

 一方、日本語にして漢字やひらがなで表してもらいたいカタカナ語は次のようなものである。インキュベーション(新設企業を育成するために情報を提供したり相談にのったりすること、浅学ゆえ私も知らなかった)、アジェンダ(検討課題、予定表)、サブスクリプション(予約申し込み、購読予約)、インスタレーション(設置、取り付け)、サスティナビリティ(持続可能性)、トレーサービリティー(追跡可能性)、リテラシー(コンピューターや情報の活用能力)。皆さんは全部ご存じだっただろうか? 私は半分だめだった。
 カタカナ語が増えたことについては、賛否両論がある。反対派は、政治家や官僚、報道機関が適切な言葉への翻訳を怠ったからとか、人によって理解が違うので都合が悪ければ言い逃れをするのに都合がよいとか。一方賛成派は、一言で分かるとか、正確な意味で使うには長くなるので、カタカナ語そのものがよいとか、技術・生活の進歩、情報の国際化など世の中の変化に対応するためにカタカナ語を適切に取り込むことことは良い事だ、と言う意見もある。そのうちに、日本語の半分はカタカナ語になってしまうかもしれない。ジャパン語と言う語を訳しても じゃぱん語 になり、日本語という言葉は消えてしまうかもしれない。

 今年の大河ドラマの影響だろう、1000前の時代の物語がブームで、平安時代の、やんごとなき人種の優雅な生活が披露されている。確たる証拠が少ないために、物語の中身が絶対にそうだったとは言えないと言う人もいる。でも、そうではないと言う証拠もないのだから、書いた人の勝だ。しかし、大まかなところは、ドラマのようだったんだろう。そこで、私は、常に思うことがある。それは、本当の会話はどうだったんだろうか、と言うことである。文字は、沢山残っているが、会話の内容、使われていた会話の音声は、どんなだったんだろうと、常に興味を持っている。本当にドラマの様な会話だったんだろうか、とか、天皇は朕と言ったんだろうかとか、自分のこと、相手の呼び方とか、それぞれの時代の言葉すべてについて知りたいものである。
 よく人に言うのだが、不可能に近い方法だが、一つだけない事もないと。それは、将来UFOと交流ができるようになった時に、大昔から地球を訪問していたのだろうから、当時の地球上の生活ぶりや戦争などの様子、それぞれの会話の録音は当然取ってあると思う、それを公開してもらうことだ。何千年何万年先になるかわからないけど。ホモ・サピエンスが生存していればの噺である。

 近年の日本語の変わりように、腹立たしい思いを込めて、言葉の話しをしてきたが、最後に、一つの色が、相反する二つの言葉によって全く別の意味合いを持つということを紹介して、締めくくりとしたい。それは、「黒」と言う字、言葉である。反対語の白には、このような意味は少ない。
 ”青きは鯖の肌にして、黒きは人の心なり” 昭和の大作家尾崎士郎がよく口ずさんでいたという。人間や物事の邪悪さを「黒」で表現することが多い。腹黒い、あいつは黒(犯人)だ、黒覆面の怪盗、真っ黒な闇、都合の悪い文書を黒く塗りつぶす、ブラック企業などなど、近年は見せたくない富士山を黒い幕で覆うなんて、悪い表現に使われることが多い。しかし一方では、堅い厳粛な意味にも使われる、黒いスーツは儀式の象徴だし、その場を引き締める。黒い乗用車は権威を連想させる、強さを表すもので柔道の黒帯とか、会社の利益が黒字だとか、物事の上手をあらわすのに玄人(くろうと)という、清水寺の年末の書き納めの文字を、墨黒黒と、と言うなど、黒にもよい意味が沢山ある。ものは言いよう、使いようで、よしあしが逆になる。馬鹿の一つ覚えは人格と常識の有無を問われかねない。心したいものである。黒について、昭和の大女優高峰秀子はこんなふうに、つぶやいている。 
『黒は難物(なんぶつ)。着こなし上手にも、若い人にも似合わない、さらに乱暴な着方はヤボになる、黒を生かすも殺すも、その人のセンス、黒はひとくせもふたくせもある、黒が似合うのは余り自慢にならない、黒を着るのは覚悟がいる。』(高峰秀子 写真展 2024.11月)

おわり

(2024.10.5記)

 

「参考資料」

朝日新聞
 夕刊Be版 (2020.5.2)、
 朝刊:天声人語 (2024.9.6)

 


 

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