第12回 

 

 

前編

 

 

ラパスのエル・アルト国際空港
標高4000米

  ボリビアの首都ラ・パスの中心部にある、サン・フランシスコ教会は、1549年にスペイン人の植民地化が始まるとすぐに建てられた教会である。丸屋根の塔が美しいバロック風の建物で、入り口は、"ムデハル"様式と言って、花弁のような切り込みがあり、中世スペインの特徴的なデザインである。
 教会の前は市内の目抜き通りで、どんな用があるのか知らないが、いつも、大勢の人々が集まっている。人々の半数以上はインディヘナで、特に女はスカートを何枚も重ねた独特の衣装を着て、出身地ごとに区別された帽子をかぶり、背中にカラフルな織物で包んだ荷物を背負っている。

 教会の左側の道は"サガルナガ通り"と言う登り坂で、坂の途中には大小の民芸品店がたくさん並んでいて、売っている物も千差万別だ。坂の上には、原住民の市が1年中開かれていて、生活に関わるあらゆる品物が揃っている。日本製の電気製品などもたくさんある。

 サンフランシスコ教会の前

(注:従来使われているインディオと言う言葉は原住民への差別言葉であるとして現在禁止用語なので、聞きなれない言葉であるが、本文ではインディヘナと国連などで使用される呼称をつかっている。)

 ボリビアは、ペルーと共に、私の知る限りは、南米で最も民芸品、手工芸品の豊富な国で、1軒の店でもつぶさに見ていようものなら、たちまち数時間が経ってしまいそうだ。

サガルナガ坂の市場

 ラテン・アメリカの民芸品は、何処の国も大別すると、材料や形や題材は様々だが、壁掛け、置物、敷物、人形類と大体相場が決まっており、この他に金銀や宝石・輝石などを使った装身具や装飾品なども、選ぶのに困るくらい豊富にある。サガルナガ坂の真中にある一番大きい店に入ると、壁や天井まで一面に、木彫りのインディヘナの農夫、チャスキ (インカ時代の唯一の通信手段だった飛脚のこと。足が自慢の若者が、アンデスの険しい山々を越えて国中を走り回った)の姿、インディヘナが信仰した神々の顔、リャーマ、アルパカなどの動物の模様の壁掛けがびっしりと飾られている。
 周りの棚や台の上には、本物の毛で出来たリャーマやアルパカなどの動物人形、インディヘナの人形、トトラ (チチカカ湖で採れる葦の一種で2メートル以上もある)細工の船、ポンチョやセータ、袋物などの他、小さなキーホルダーや魔除けやら数え切れないほどの民芸品が山を築いており、その種類の多さには驚かされる。また、精巧な木彫り細工の壷、瓶、コップなどもある。

腐りかけて放置されたトトラ船 

 ボリビアは、今でこそ大した量ではないが、かっては、ヨーロッパの経済を支配したほどの銀と、錫の産出量を誇った国なので、銀や錫でできた製品は山ほどある。大は大きな壁掛けや皿から、小は小さな指輪や、ネクタイ・ピンまで、また食器でも、ナイフ、ホーク、スプーン、ナプキン立て、ペーパーナイフ等は元より、普段は使わないような、錫製のワイン・グラス、ビール・グラス、コーヒー・カップなどまで揃っている。
 チチカカ湖の写真に必ず出てくるのが、トトラで作った船である。この船は湖岸に住むインディヘナの生活に欠かせない道具であるが、トトラは腐りやすくて寿命が短いので、しょっちゅう新しいのを作っていなければならない。観光案内書や絵葉書などには、チチカカ湖沿岸に残骸をさらすトトラの船が写る事はないが、あちこちの水際には朽ち果てたトトラ船の無残な姿が晒されている。

トトラで作ったリャーマ人形

 民芸品のトトラ船には、大きいのは1メートル位のものもある。作り方は本物とおなじようであるが、帆の上に吊るす毛糸で作った飾りものの意味が良く分からない。購入しても持って帰るのが大変で、壊れやすいので飛行機の中まで抱えてこなくてはならない。
 農夫の木彫り人形は、必ず男女が左右対称になっている。暗い色調のものが多い。顔つきは、どこかアジア人種に似ているが、鼻の直線が特徴的である。女の被っている帽子は、色や形で住んでいる村が分かるようになっていると言う。皆表情が幼稚で暗く、男女の区別が分かりにくい物が多い。 ラテン・アメリカの民芸品には、何処の国にも、様々な大きさの壁掛け類があるが、特に毛糸を編んで作ったものは素晴らしい色彩のものがある。しかし、デザインや細工はそれほど優れているとは思えないが、額などに入れて飾ると重厚な感じがでて、現地を思い出すい記念になる。  

エケコと言う縁起物人形 

 ラ・パスから北に道を取り、ペルーとの国境線が通るチチカカ湖へ行く。途中の村々には、トラックの運転手や、沖の小島に渡りたいという、物好きな旅行者を運ぶモーターボートの運転手などが屯す、小さな食べ物屋がある。ちょいと寄って、パンチョ (コッペパンのような形をしている固いパンにチョリッソを挟んで、マスタードをたっぷりかけたホットドッグ)を食べ、セブン・アップかコカ(コーラのこと)を飲んで、少しの時間駄弁る所である。
 こうした店の一つで見つけたのが、トトラで出来たリャーマと羊の人形と、それに女が路上で機織をしている人形だった。
 トトラのリャーマなどは、毛でできたリャーマと同じで、何処にもあると思ったのだが、意外とこれが珍しい物で、ラ・パスでは殆ど見かけなかった。ただ、乾燥が完全でないのか、日本の湿気が悪いのか、時が経つと中からトトラの芯が粉のようになってこぼれてくる。

インディヘナのペアー人形

 機織の人形の顔つきは若く見える。ペルーのアンデス高地でもそうだが、、実際に高地の路上で見る機織女は、かなりな老婆である。もっとも平均寿命が短いので年齢は案外若いのかもしれない。この人形が店の棚の上に飾ってあるのを見て、一目で気に入った私は、是非売ってくれとモッサ (店の女の子)にたのんだ。売り物ではないと言うのを無理に頼んだので、足元を見られ言い値で買うしかなかった。なんと、40ドルである。それでも満足だったのだが、ラ・パスを去る時、空港の売店でこれが、たったの13ドルで売られていたのを見て、悔しい思いをしたものである。知らないということは恐ろしいことだが、こういったことも経験となり勉強になる。
 インディヘナは、一見従順で素朴な感じで、旅行者を誤魔化す事などしないと思っていたが、どうして、中々の商売上手だということを後で聞いた。ラ・パスの路上では、煙草やガム、キャラメルを1本ずつ一個づつ売っているが、これが結構いい商売になり、稼いだ金でバスや自動車を買い、これを個人や会社に貸して、さらに儲ける人たちがいると言う話しを聞いた。

乾燥コカの葉を売る女

 ラ・パスからチチカカ湖への道とは正反対に南へ230キロ、車で3時間も走ると、昔は錫鉱山で栄えたオルーロの町ヘ着く。ここのカーニバルは、リオのカーニバル(ブラジル)、クスコのインティ・ライミ(ペルー)と共に、南米の3大祭りの一つに数えられている。このお面は、"La Diablada(悪魔の踊り)"で、悪魔が被るもので、金銀をちりばめた龍のような形をしている。踊りは最後に、悪魔が天使ミカエルに討たれて終わる。お面の実物も売っているが、とても重いし大きくて、日本からの旅行中には買えるものではない。
 ここのインディヘナの市は、鉄道線路の両側に露店が広がり、一部は枕木の上まで進出しているが、1日に何本か列車が通る度に、汽笛に追われるように急いで荷物をまとめて線路脇に避難する。 そんな危険と同居しながらも、ラ・パスのサガルナガ坂上の露天市に負けぬ賑わいを見せている。 路上に広げた品物は主に食料品であるが、観光客に珍しいのは、乾燥したコカの葉を売っていることだ。

コカの葉を落とし、
出来た形で占う占い師

 コカは麻薬のコカインの原料になるものだが、本物のコカインにするには、その数千倍とか数万倍の原料葉が必要だと言う。私も幾度かコカの葉を煎じたコカ茶を飲んだり、口の中で噛んだりしたが、決して美味しい物ではない。何となく生臭くいだけで、味も香りもしなかった。日本では絶対に出来ない貴重な経験だった。それでも、高地のホテルでは、高山病の予防にと旅行客に提供してくれる。麻薬も薬には違いないわけで、インディヘナ達は、子供の頃からこの煎じた茶のようなものを飲んだり、葉を噛んだりして育つので、彼らには癌や心臓病、それに目や歯の悪い人はいないと言われている。路上で売っている乾燥コカ葉は飲むだけではなく、占いにも使われる。乾燥した葉を、目の高さ辺りから地面に落とし、落ちた葉の形や高さで、色々なことを占うのだそうだ。

男女のカップルだが
どちらも厳しい顔で
男女の見分けがつかない

 雑貨店のようなアラシータの店には、日常使う物から、車、家、電気製品、食料、さらにはお札や、証券類まで、生活に関する全ての物のミニチュアがある。これを買って、お酒や花などを供えてお祈りすると、願いが叶うと言われている。インディヘナの希望や夢の一旦が伺い知れると言うものである。

 オルーロからさらに南に下るとウジュニ塩湖がある。南米大陸のこの辺りは、アルゼンチンのリンコン塩湖とかチリのアタカマ塩湖などがあり、湖底には世界の凡そ80%とも言われるレアメタルのリチュームが眠っている。電気自動車などの電池に欠くことのできないリチュームを巡って、先進国をはじめとする多くの国々がその開発利権の争奪戦を繰り広げている。日本勢の健闘を是非期待したいものである。

 ウジュニ湖といえば2008年の5月、日本のゴールデンウイークにボリビアへ行った日本人観光客が、イスラエル人観光客を乗せた車と衝突して5人が死亡した悲しい事故が起きている。

乾燥したリャーマ胎児とか
動物の乾燥品を売っている、
薬のようである

 ボリビアをよく知るには、ラ・パスとオルーロとチワナコ遺跡とチチカカ湖などだけではなく、銀の町ポトシとか、憲法上の古い首都であるスクレとか、日本人移住者が多く気候の良い、サンタ・クルスとかコチャバンバなどの町がある低い地方や、広さ12000平方キロもある雪原のような広大な塩の湖ウジュニ湖(ウユニ湖)などを見ないと、よく分からと思うが、残念ながら私は行ったことがないので、ここで紹介することは出来ない。

 さらに東北部のベニ州はコカインの元になるコカの畑がたくさんある所で、南米の麻薬の主産地の一つである。普通の人が近づく所ではない。そこで、この物語では再び道を北に取り、チワナコ遺跡を通って、ペルーとの国境にある、世界一高い湖チチカカ湖へ向かう事にする。

(ボリビア編 前編おわり  2022.1.3 記)

 

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