連載コーナー




 
四 季 雑 感(58) 
 
携帯電話と 電卓の数字配列は なぜ違うのだろうか
 
樫村 慶一

 
 2020年と言う年は、今の時点でもそう思うけど、この先、何十年、何百年か経ったときの歴史でも、きっと、地球上の生活様式に大変革が起きた年と言われるに違いない、と思うほど、今年のCovidは世界中の人間の生活を変えた。恐らく自然界の動物や植物の世界・生態も人間生活の変化にひきずられて、変わっているのではないかと思う。そんなことが起きていたって、別にいいじゃないかと人は思われるだろう。その通りであって、自分の生活や周囲に支障がなければ、人間は何事も問題にしない。それは些細なことから大きな政治問題まで色々ある。そんなことの一つに、これから書こうとしている、電話のダイヤルボタンと携帯電話のダイヤルの配列の違いがある。問題にするほどのことではないが。
 私は、毎日使う携帯やプッシュフォン式固定電話と、時々使う電卓の数字の配列が違うのはなぜだろう、どうして統一しないのだろう、と時たま思う。数字の配列といえば、銀行のATMもちょっと違うような気がしていたら、これはネットに答がでていた。ATMの配列は銀行によって、また同じ銀行でも支店によって違うとか、それも、時々並べ替えるとか、ちょっと信じられないようなことが書いてあった。理由は、暗証番号が傍(はた)からみられて指の動きで悟られないようにするためだとか。ずいぶん細かいところまで、気を遣うもんだと感心した。
 さて、本題の電話と電卓の違いだが、電卓そのものは最近は携帯電話の機能の一部にもあるので、そっちを使うことが多いと思うけど、携帯電話の中の電卓機能の配列もちゃんと電卓配列で、電話配列とは逆になっている。面白い現象だ。その違いについての答えを、50年以上前から続けている新聞記事のスクラップ・ファイルの中から偶然見つけた。以下に、2007年8月20日の朝日新聞「生活欄」に出ていた記事を拝借する。
 電卓の配列はISO基準で、電話は我々(KDDマンにとっては)に馴染みの深いITUで決められている。外国では1914年に米国で作られた足し算、引き算しかできない「加算器」というのがあった。国産ではカシオが1957年に発売した電卓のルーツに当たる「電気式リレー計算機」が最初である。下から0,1,2・・と並んでいる。大きさは事務机と同じくらいの大きさで、数字ボタンは大人の親指位あった。60年代になって小さくなり机の上に置いて使えるようになり、「電子式卓上計算機」略して電卓になった。数字配列は下から 0、1,2,3が定着していた。
 一方プッシュホン型の電話機は1960年頃に米国で実用化され、日本国内では1969年頃から利用されるようになった。上から 0,1,2と並ぶようになった経緯はNTTでも古い事で資料がないから分からない、と書いてあるが、餅は餅屋で国際先達のKDDなんだからITUに直接聞くとか、今でもITUと関わりのあるOBに聞けばわかるかもしれない。
 どちらの配列が本当は使い易いのかということになると、電卓として計算に使う場合は、よく使う0や1が手前にある配置は人間工学的に正しいと言われる。しかし、電話式も合理的だと言う。縦横に並んだものを見る時、人間の視線は自然と左から右へ、上から下へとZを書くように動くので、左上から1,2、と始まる配列が探しやすい。電卓と電話は使い方が違うので、どっちがいいとは決められないと専門家は言う。どちらかに統一できないかと言う論争は過去に一度あった。1969年に、電電公社が数字の配列が違うのはおかしいと問題提起をした。先発の電卓メーカー側は電話の配列こそ再検討すべきだと、通商産業省へ申し入れた、しかし、双方とも「すでに国際規格できまったこと」として譲らなかったと言う。電電公社の技術者の中には電話の方を見直すべきと言う意見もあったが、大勢は「将来は計算機よりプッシュフォン電話の数が圧倒的に多くなるだろう」と言う意見が多かったからだとも言われている。確かにその通りになった。
 どちらも慣れの問題だと思うけど、旧KDDも先見の明を持って、もっと早くから携帯電話事業に介入していれば(いろいろ複雑な事情があったことは知っているが)、今のKDDIも違った形になっていたかもしれない、など過ぎ去りし愚問を問うてみた。 
終わり  

                             (2020.10.5)