連載コーナー




 
四 季 雑 感(54)  
樫村 慶一
  
Stayhome を聞いて 思い出したこと

 

 緊急事態は解除になったけど、Covid-19のパンデミックが起きて以来、表題の言葉をよく耳に目にする。そして、スペイン語圏の友人(30年以上前の古い話なのでペルー人だったかアルゼンチン人だったか定かではない)がかって、英語は言語学的にはスペイン語より800年遅れている、と言っていたことを思いだした。どうゆうことか聞いて、いろいろ理由があったよう思ったが、その中で覚えていることを思い出してみると、800年遅れはともかく、たしかに、なるほどと思うことがいくつかある。

 Stayhome(米国の言い方、英国系はstayathomeが多い)と言う言葉は、上から下まですべての階級の人に等しく語りかける、二人称の一つだけのパターンだと思う。ところがスペイン語には相手との関係により二つの言い方がある。こうゆうことも、友人の言ったことの理由の一つだったように思う。どうゆうことか並べてみよう。

① 英語は発音が曖昧で聞いたことを記述するのが難しい。例えば語尾が、アー という場合、英語では ar er or ir など、同じ発音でもいろいろな書き方があり、初心者や英語圏ではない人には分かりにくい。かって大流行したインフルエンザの SARS と MERS も、サーズ、マーズでどちらも アーと発音する。スペイン語ならサールス、メールスになる。この曖昧さが発展途上だという一つの理由だ。  スペイン語では、聞いた通りに書けばほぼ正解である。ローマ字で書くのと良く似ている。母音には発音が一つしかないし、最後の子音のrを発音するので、アールはar (trabajar=トラバハール、働く)、エールはer(comer=コメール、食べる)、イールはir(vivir=ビビール、生きる)、と言うように明快だ。
 ただ、発音は同じなのに文字が違うのが幾つかあり、慣れるまでは少し戸惑う。例えば、サ行の子音はs とz の区別がつかない(スペイン語圏の人間でも間違うことがある)。ハ行はややこしい、ハ=faとja、ヒ=fiとgi、フ=fuとju、ヘ=feとge、ホ=foとjo。ラ行ではrと l が日本人には聞き分け難い。
  ジャジュジョはyとllが使われる。例えばyacer=ジャセール、横たわる、yudo=柔道、yo =ジョ、私、と llamar=ジャマール、呼ぶ、lluvia=ジュビア、雨、llorar=ジョラール、泣く、の両方があるなど、始めは戸惑う。なおllは少数派だがリャと言う人もいる。話はちょっとそれるが、スペイン料理の海鮮炊き込みご飯をパエリアと言うのは間違いで、”paella=パエージャ”が正解である。磁器のリヤドロもジャドロが正しい。

② 人称は英語もスペイン語も1人称、2人称、3人称とあるのは同じだけど、スペイン語には直接の相手、つまり2人称には相手によって3人称を使うことも多い。どうゆうことかと言うと、2人称は、君とかお前とか、親しい友人とか、家族親戚間とか、自分と同列か目下の人に対して使う。それに対して、初対面の人とか、”あなた”と呼ぶような関係、先輩、上司、或いは社会的地位のある人など、要するに、君とかお前とか言うのは失礼である相手には三人称を使う。こうした相手には直接呼びかける形ではなく、何らかの社会的地位の象徴である肩書に対して、話しかける形を作る。つまり、相手の名誉や肩書は人ではないので3人称になる、そのため相手を呼ぶのに3人称という変則な形になるのだ。英語だと、大臣に対しても乞食に対しても、二人称はyouで通用するのだろう。偉い人にはそれなりの肩書をつけるだろうけど。この辺も言葉の進歩という点でスペイン語が勝っているように思う。それとも単なる権威主義の名残というべきなのか、私には分からない。

③ 敬語表現が多い。歴史を見ればお分かりの通り、ラテン語(注)が発展してきたイタリアを始めイベリヤ半島やヨーロッパ本土には、かっては王制国家が多く権威主義が国の体制の主流だったことから、格式ばった体裁ぶった見栄を張る社会習慣が強かった。だから、前記のように、相手に対して、相手個人に直接話しかけるのではなく、相手の肩、胸に飾られた”名誉を通して申し上げます”、というような形になった。そこで、名誉や飾りは第三者であり、三人称ということになる。ややこしことである。その結果 stayhomeの場合も、スペイン語では「家にとどまっていろ」と言う言い方と、「どうか、家にお留まり下さい」の二つの言い方ある。スペイン語でstay と同じ意味の”とどまる”という自動詞はquedar という。動詞の変化は100以上あるが、この動詞の命令形として、お前、君に対して”とどまれ”は quedate (ケーダテ)となり、”お留まり下さい”では quedese (ケーデセ)と変わる。上から下まで stay 一つしかない英語より、相手によって言い方が二つあるスペイン語の方が、やっぱり進歩しているように感じる。丁寧な言い方には、英語の please に相当する言葉は当然あるし、名詞と形容詞やをつけた補足語で”どうか”とか”すいまませんが”という意味にしたり、動詞の変化を変えたり、まったく違う構文にしたりして、他にも言い方があるし、多彩な表現もできる。

(注)ラテン語:ローマのごく小さな地域ラティームで使われていた言葉で、ローマ帝国の公用語になり発達した。 
 後裔の現在の俗ラテン語とは、スペイン語、ポルトガル語、イタリヤ語、フランス語、ルーマニア語を言う。  

④ 感情を込める言い方が日本語と同じようにできる。たとえば、”なにかが出来るか”という質問をする場合、・・・ができるか? と単刀直入に聞く場合と、・・・できますでしょうか?↑と、語尾を少し上げ態度を少し引いて丁寧に聞く聞き方がある。この例の場合の動詞は ”出来るpoder”という動詞だが、君とかお前の間柄で聞く場合は直接法の二人称 ¿pueda?(できるか?)、貴方などの場合は三人称 ¿puede?(できますか?)になる。さらに丁寧に聞く場合は可能法と言う変化があり podría (できますでしょうか?↑)となる。 特に可能法は実際に会話で使うと感情がよく表れる。英語だとどうなんだろう、こういった微妙な言い方があるんだろうか。テレビなどで日本語に翻訳する場合は、言っている相手によって翻訳者が若者言葉から上品な言葉にまで、言い換えているんだと思う。

 40年近い昔に聞いたことを思い出してみたけど、800年進歩しようが遅れようが関わりないが、自分自身のスペイン語の知識が急激に脳細胞から消えていくのが、たまらなく寂しい。世のかな嫌なことがいっぱいあって、卒寿なんて目出度くもなんともないことがようく分かったきた昨今である。

(2020.5.28)

(ここに書いたことは、私の忘れかけたスペイン語と未熟な英語の知識だけでまとめたものです。間違っている個所があるかもしれません。お気ずきの場合は、どうぞ、下記までご連絡ご指導ください。よろしくお願い申し上げます。) 
k.kashimura@ac.cyberhome.ne.jp